2012年1月22日日曜日

アウトライン作成

今回も湯尾が担当いたします。


先日のデータ分析の結果、私たちはついにそれを活かして論文を書き始めるための材料を揃えることに成功しました。


けど、すぐさま調理は始めません。材料をどう調理するかのレシピを作ります。それが研究でいうならば、アウトラインにあたります。



アウトラインをしっかり書く意義は、研究論文を支える骨子を固めることだと思います。



何かを書くことは、ほとんどの場合読み手を必用とします。言い換えるならば、読み手がいないということはほぼなく、それは相手への伝達を第一義の目的とします。その彼らに伝えるべきものを、明確にわかりやすくするために、必要最低限の主張と論理を展開するのがアウトラインです。だから全体を執筆する前にしっかりと骨組みだけを組み立てます。

このアウトラインの段階で、先生や院生、同期のフィードバックが入り、ここでしっかりとした骨子が書けないと、全体を描くことはできません。



こういったアウトライン作りですが、大変難しい作業です。



大体の論文には「型」がありますが、特に経営学の定量研究では、「先行研究のまとめ」が大変重要となります。

研究は先人達の知恵の蓄積の上になりたっているので、当たり前と言ったら当たり前ですが、特に定量研究の場合には、仮説の導出であったり、分析で使用する変数であったり、分析モデルであったり、ほとんどの研究内の要素は先行研究と紐づいています。だからこそ、定量研究では研究者が今まで「何を」「どのように」主張しているのかを丹念にたどっていく必要があります。

私たちの場合は、まず山下先生と山田先生が共同で書かれた「プロデューサーのキャリア連帯」という書籍を軸に、どのようなメカニズムが働いて商業的にも芸術的にも成功へと導く“創造性”が高まるかを綿密に読み込みました。

その中には海外ジャーナルなども多数引用されているので、そちらも何を主張しているのかを参照しました。

そして、実際まとめる作業にと移るのですが、ここもまた難しい。自分らのオリジナルの流れで先行研究をまとめるためには、細かい言葉の定義であったり、概念の内容であったり、それらが果たしている機能であったりをしっかり理解することが必用です。

たとえば、創造性という言葉自体、とてもアバウトな言葉で汎用性があります。ある人はこれを芸術性の源泉だと捉えます。もう一方で、これは企業におけるイノベーションを促すものだとも考えます。



そうです。人によって捉え方が異なります。研究者内でも多少のずれがあります。



だからこそ、多くの文献を読みこみ、比較することで、理解が促され、筋の通った先行研究となります。

そのようなことを続けて、結果、アウトラインもそれだけで、10,000字を雄に越えました。
さて、あとはこのアウトラインをもとに論文を執筆します。

2012年1月12日木曜日

最後のデータ分析

新年明けましておめでとうございます。湯尾大祐です。

年末から年明けにかけてのデータ分析の結果、及び先生との相談をさせていただいて
大まかに2つの課題が目の前に提示されました。

ひとつは、概念を定量分析するための変数の尺度を変えて測り直すこと。
もうひとつは、その結果をもとにアウトラインを作り始めることでした。

私たちは、「キャリア連帯」という概念の実情がどうなっているのかを、映画産業におけるキープレイヤーである監督とプロデューサーを分析単位として、実証することが私たちの研究目的である捉え、研究の方向性を微調整しました。

そこで、先行研究で言われている測り方でキャリア連帯の変数を構築しようと考えたのですが、そこに私たちの研究ならではの問題点が現れました。それは、対象となる監督・プロデューサーのキャリアを考慮して分析するとなると、先行研究での測り方には自ずと限界が表出されるということです。

その限界とは、キャリア連帯の重要な要素である「経験量」を考慮して分析することができないということです。

厳密な定義は以前の記事で説明したので省きますが、キャリア連帯とは、あるプロデューサーが特定の監督と「私はあなたとキャリアを共に歩んでいきます」といったある種の契約を暗黙に結ぶようなことです。そのお互いの忠義の契約をもとに、信頼を醸成させ、価値観を擦り合わせたりしながら、創造性を高めていくことになります。

そこには2年、3年といった短期スパンではなく長期的な関係をもとにお互いのキャリアを共に歩んでいく前提があります。

そこで我らが分析のサンプルを鑑みたときには、そのような短期的な、キャリアが含まれています。それはそれで厳密に言うと問題なのですが私たちは「日本映画産業の全体として、キャリア連帯の重要性を実証する」という研究目的なので、そのサンプルにそったキャリア連帯を測る指標を自分たちで構築し、分析しました。

その結果は、「大成功」でした。
詳しくは私たちの論文を見てください!ほとんどが統計的優位のお墨付きをいただきました。

さて、これからはこの分析結果をもとにアウトラインを作成し始めます。

2012年1月8日日曜日

実証研究への取り組み ~変数の妥当性とは2~

新年あけましておめでとうございます。串田です。
今年はメンバーの平野の家で合宿を行い、年越しを迎えました。

昨年の年の瀬に、我々は変数を累積でつくることの妥当性のなさを指摘されて、完全に研究の方向性を見失ってしまいました。今から、新たに変数を作り直すのは、膨大な時間がかかるため、とても卒業論文の提出が間に合いません。

悩みに悩んだ末、今すでに作ってあるデータから可能な研究をしようという、結論に至りました。

そこで、私たちは山下・山田(2010)が提唱したキャリア連帯という概念の実証研究をすることにしました。

キャリア連帯とは、映画プロデューサーと監督の2者間の代替不可能な関係のこと。仲がよくお互いがいないと駄目になってしまうカップルだと想像してください。

このキャリア連帯がプロデューサーと監督との間でしっかりと構築されることで、独自の価値形成が行われ、商業的にも芸術的にも素晴らしい作品が生まれやすくなるのです。さらに、この映画プロデューサーと監督を協力してくれる支援者と関係を構築していくこともキャリア連帯から生まれた独自の価値を実現するうえで欠かせません。

山下・山田(2010)では以上のような、映画プロデューサーと監督との間に焦点を当てて
キャリア連帯というとても興味深い概念を導出しています。

しかしながら、山下・山田(2010)は何個かのケースを用いた定性研究で、定量的に実証したものではありません。定性研究はある現象を一つの側面から捉えて記述するため、どうしても単一事例を扱う傾向が強く、普遍性にかける部分があります。(一説には定性研究の90%ぐらいは実証研究されないまま概念導出で、終わっているみたいです。)

だからこそ、キャリア連帯を実証することは、地味ではあるが、とても価値のあることだと私たちは考え、キャリア連帯は本当にあるのか証明しようと決めました。

卒論提出に間に合わせるためにも私たちは、さっそく現在のデータを、夜を徹して整理をしていました。

今回は、分析単位をプロデューサー個人から、プロデューサーと監督のペアに変更する必要があり、とても煩雑でした。定量研究では、分析対象によって、適切な分析単位を設定することが重要になります。分析対象が企業であれば分析単位は企業であり、企業内のチームであればチーム、企業内の個人であれば個人です。

今回、私たちの分析対象は、プロデューサー個人から、キャリア連帯という「プロデューサーと監督の関係」に変更しました。よって、データベースもプロデューサー個人を分析単位としていた形式から、プロデューサーと監督を分析単位とする形式へ変更しました。



なかでも特に、苦労したのが山下・山田(2010)がキャリア連帯を測定する指標として提示している協働の集中度のデータ製作です。

協働の集中度とは、プロデューサーが特定の監督と協働している度合いを示すものであり、
「プロデューサーが過去に協働した映画監督の氏名をすべてピックアップし、その協働回数をそれぞれカウントした。そのうえで、特定の監督がそのプロデューサーが手がける作品のなかで、どれだけのシェアをもっているかを計算した」指標です。(山下・山田, 2010)

膨大なデータがあるため、処理をしていたら、パソコンが止まったり、最終的には、セーブを行っていなかったためにかなりの逆戻りすることもしばしばでした。

ちなみに、定量研究においては、過去の先行研究の役割は、主張や内容を引用するだけではありません。先行研究が用いている変数や、変数の設定方法までも引用するのです。
というのも、そのような手続きを踏まないと実証研究にしろ、主張を覆すにしても、同じ方法で乗っ取って引用していかないと「違う方法だから結果が違うんでしょ」と言われかねないからです。なので、私たちも山下・山田(2010)に倣って、変数を設定したのです。

話はそれましたが、このような膨大なデータ処理のため、一つの作業工程に大幅な時間がかかり、結局、データセットをつくり分析結果が出たのは、14日でした。

そんな苦労に苦労を重ねて出した、分析結果はというとキャリア連帯そのものは興行や芸術に負の関係がありました。(キャリア連帯を構築するほど、興行も芸術も悪くなる)
しかし、プロデューサーが過去に自分が携わってきた映画で協働して積み重ねてきた制作者のネットワークの密度が濃い場合、キャリア連帯は興行や芸術に対して正の関係です。
(プロデューサーのネットワークが密の濃い場合、キャリア連帯は興行や芸術をあげる)

密度が濃いネットワークとは、閉鎖性が高いネットワークとも言いかえられ、そのネットワークの中では、お互いの信頼が深まり、暗黙知の共有が進むとされています。

映画であれば、監督の世界観や、価値観が周りのスタッフにも浸透しており、監督が細かい指示を出さなくても、スタッフが察することで、監督の撮りたい映像を撮ることができるような状態を指します。

この分析結果から
山下・山田(2010)が述べているように、映画プロデューサーと監督のキャリア連帯は外部の関係をしっかり構築してはじめて価値を生み出せるものだと、私たちは解釈しました。

そして、私たちはこの結果と解釈で、井上先生のところへ、新年はじめての相談へ伺いました。

が、またも私たちは気づかないうちに、同じ過ちをしてしまっていたのです。

「密度という指標では、外部の関係を捉えられていない」

過去築いた人たちのネットワークではなく、その映画で協働した制作者たちと過去にどのくらい協働したか、その人たちとどのような関係を構築したのかという指標でなければ
外部の関係は測定できないと言われました。

ネットワーク密度とは、
「ネットワークにおいて行為者同士の関係が、そのくらい密接であるのかの程度」であり、
「実際に存在する紐帯の数を、理論的に存在可能な紐帯の数で除して計算する」とされています(安田, 2001)
密度は1~0の値をとり、1に近づくほど密度が高いと言えます。この定義から、私たちは密度が高くなるほど、周囲の関係が構築されていると言えるのではないかと考えていました。
しかし、実際におこる現象を考えてみると、全く違うことがわかりました。プロデューサーは作品ごとに製作チームを組織し、製作スタッフと協働しながら映画製作を行います。これは、プロデューサーがその製作チームのスタッフ全員とつながりをもつことを示しています。

言い換えれば、プロデューサーがその製作チームに対してもつ、ネットワークの密度は「1」になるということです。それは、はじめて映画制作をしたプロデューサーの密度は「1」、
その後、異なる製作チームと映画を作れば約「0.5」のように、密度には減少していく傾向があることも示しています。

たしかに、次のプロジェクトで同じ製作スタッフと協働すれば、密度は高いままですが、それは「密度」ではなく、他に適して指標で測られるべき現象です。つまり、私達が密度を用いて測定していたのは、同じ製作スタッフとの協働度合いという密度で測るべきでないものでした。

さらに、
キャリア連帯を測定する協働の集中度についても、問題点を指摘されました。協働の集中度だと、どんな監督と組んでも値が、最高値である1になってしまう。そのため、分析結果が負の相関になりやすくなるのです。

ただ、幸いにも先生からは、協働の集中度に変わる変数を使って、キャリア連帯をしっかり実証研究するようアドバイスを頂き、研究の方針がしっかり定まってきました。

これからが踏ん張りどこです。
卒論提出が近づいているため、アウトライン作成と並行して、分析を行わなければなりません。きついですが、もう少しで完成なので気張っていきます。

それでは。
串田